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「ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!」

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ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!
監督:エドガー・ライト
主演:サイモン・ペッグニック・フロスト
公開:2007年 イギリス/フランス映画
ジャンル:刑事モノ、サスペンス、コメディ、アクション

■Story
超エリート警官ニコラス・エンジェルス(サイモン・ペッグ)は、カンタベリー大学を2つの科で首席卒業した秀才でスポーツ万能、職務において数々の名誉ある賞を受賞し、首都警察署内でも検挙率は断トツのNo.1。真面目な性格で警官として火の打ちどころはないものの、そのあまりの活躍ぶりに上層部から疎まれ田舎町へ左遷されてしまう。
左遷先のサンフォードは"ビレッジ・オブ・ザ・イヤー"に選ばれるほどに平和で事件とは無縁な町。同僚たちは「この町で事件など起こるわけがない」と昼間からビールを飲む始末。
しかし、明らかに事件性のある出来事がすべて"事故"として処理されてしまうこの町の異様な空気に気付いたニコラスは、同僚のダニー・バターマン(ニック・フロスト)を相棒にこの"模範の町"の正体に迫っていく。

■Detail ※ネタバレあり※
エドガー・ライトサイモン・ペッグニック・フロストの3人組が製作に携わる「スリー・フレーバー・コルネット3部作」の中でナンバーワンに大好きな作品。
今回もエドガー・ライトの神カット&テンポな映像と絶妙な脚本(ペッグとの共同脚本)、ペッグ&ニックの息の合った演技(イチャイチャ)は抜群!今回のペッグはダメ男役ではなく超絶デキる男というものも新しい。
この映画の魅力はライトとペッグの「俺の思うカッコイイシーンを全部詰め込んでやった」感。映画好きの方ならこの意味が分かると思うのでとくにラスト30分は必見。

【キャラクター】
ペッグ演じるニコラスは超敏腕だが真面目すぎる性格が災いして周囲から浮いてしまう不器用な役所。別れた恋人からも「仕事より大切な人を見つけなきゃだめ!」とお叱りを受ける。日々の生活も規則正しくパブに行っても酔いたくないからと頼むのはクランベリージュース。日本のピース・リリーという植物を育てており水やりが日課
サンフォードの同僚たちからも浮いてしまう中、ダニーだけはニコラスのストイックな姿勢に憧れて行動を共にしていく。

ニック演じるダニーはサンフォード警察署長の息子で警官。父親ややる気のない同僚たちと日々仕事とも言えないような仕事に従事している。細かいことは気にしないのほほんとした性格で、ニコラスがサンフォードに来て一番最初に逮捕したのが彼であった(罪状は飲酒運転でニコラスを轢き殺しそうになる)。
超映画オタクで特に刑事モノには詳しい様子。内心は立派な警官になりたいと夢見ているため、ニコラスに対して「撃たれたことある?」「カーチェイスしたことある?」「二丁拳銃でジャンプしながら撃ったことある?」などと質問攻めで興味津々。サンフォードの違和感に気付いたニコラスとともに謎の解明に乗り出す。
自身も解き方が分からないほど凝り固まったニコラスの石頭に、持ち前の明るさで少しづつ変化を与えてくれる良き相棒ポジション。

物語はこの二人のバディものであり、アクションであり、サスペンスとして進行していく。
一緒にパブに行って呑みまくったり朝まで映画を観たりと二人のイチャイチャシーンは満載。人付き合いが苦手なニコラスの内面にダニーという明るい光が差し込んでいく感じが、日常的なシーンの端々で垣間見えて永遠と観ていたくなる。
お互いが警官になった経緯をパブで呑みながら打ち明け合うシーンでは、「警官だった叔父に憧れていた。過去に一度だけマペットを夢見たが、それ以外で警官になりなくなかった記憶はない。」と生真面目なニコラスに対して、

ダニー「残念」
ニコラス「なぜ?」
ダニー「マペットも似合ってた」

そう言って二人で笑い合うシーンは絆が深まりが見てとれてとてもいい。
ダニーは警官になった理由を母親をすでに亡くしているため、父親のそばにいてあげたいからと語り、家族思いな心優しい一面を見せる。

【舞台:サンフォード】
本作の舞台であるサンフォードは田舎ならではの親密さと新参者に対する冷遇を極端に著した町。一見するとのどかだが、町の主要人物からなる"近隣監視同盟"という組織が存在し、町の治安を乱す者を目の敵にして徹底的に排除しようとしている。彼らが口にするのは常に「公共の利益のために」。

【はじまり】
転勤してきて以来怠惰な業務が続いていたニコラスだったが、ある"事故"が発生する。道路の道端で生首と大破した車が発見されたのだ。標識に衝突した結果の事故だろうと正式な捜査は行われなかったが、ニコラスは明らかな事件性を感じていた。結局うやむやになってしまったその後も、次々と発生する"事故"の数々になんの疑いも持たない同僚たちや町の住人に不審を覚えたニコラス。事件性を訴えるが「よそ者が空気を乱すな」と厄介者扱いされてしまう。

【真相】
独自に捜査を開始する中で背後に複数の人物が存在すること、犠牲者は共通して町の再開発に関与していたことが判明する。そして、突如ニコラスを襲った襲撃犯がスーパーの従業員であったことから、薄々怪しんでいたスーパーの経営者が加盟している近隣監視同盟が黒幕であることを突き止める。
同盟の会議に乗り込んだところ彼らはあっさり殺人を認める。そして、驚くことにその中には署長とダニーの姿もあった。彼らが口にした犯行の理由は町の再開発への反対などではなく「公共の利益のため町の空気を汚す者は排除する」という単純なものだった。
この20年間そうして邪魔者を殺して守ってきた"ビレッジ・オブ・ザ・イヤー"は、警部補の妻、ダニーの母親がかつて死守してきた名誉であり、彼女が自殺した理由はよそ者が町を荒らしその誇りを守れなかったことにあった。そのため警部補は妻の意思を引き継ぎ処刑人となったと語る。
四面楚歌にも関わらず全員を逮捕しようとするニコラスだが数では敵わず追い詰められていく。

【ラスト】
ダニー起点で難を逃れ町から出ようと決意したニコラスだが、立ち寄ったサービスエリアでダニーとともに観た「バッドボーイズ2バッド」「ハートブルー」のDVDを目にする。正義の心に再び火がつき、町に戻るとありったけの武器を装備して黒幕との戦いに向かう。(この時大量の武器、サングラス、白い馬に乗って登場するのがベタすぎてカッコイイ)
ニコラスの帰還に驚いた近隣監視同盟と町中で開始される銃撃戦。"ビレッジ・オブ・ザ・イヤー"の審査員たちを横目に町に銃弾が飛び交町がめちゃくちゃになっていく様は痛快。途中、ニコラスがダニーに銃を渡すカットがめちゃくちゃかっこいいので何度もリピートしてしまう。
その後もダニーが夢見たようなドンパチ(銃撃戦、二丁拳銃でジャンプしながら撃ったり、ゴミ箱へダイブしたり、カーチェイスだったり)を繰り広げ、徐々に敵を追い詰めていく。これまで敵対していた同僚たちも実は署長に操られ思考停止になっていただけで、洗脳が解けて皆が仲間になるシーンは胸熱。これもベタだけど好き。
最後の最後まで抗った署長はダニーを人質に取ってまで逃れようとするが、逆にダニーに拳銃を奪われてしまい走って逃走。後ろ姿を眺めながら奪った拳銃で撃つか否か葛藤するシーンは「ハートブルー」のオマージュで締めた。

ロンドンの元上司からの誘いを断りサンフォードに残ったニコラスは、警察署長として相棒ダニーと"常に何か起こっている"平和な町でデカとして暮らしていくのであった。

サスペンス仕立てなのにコメディチックという絶妙なストーリー展開は安定。同僚の洗脳がめちゃくちゃ簡単に解けたり、ダニーって近隣監視同盟に入ってたのに殺人を知らなかったってある?ダニーの母親の死の理由などちょっと無理がない?などのツッコミどころもテンポの良さでどんどん進むので気にならないし逆にコメディ要素に感じる。
また、近隣監視同盟が住人を殺した理由が「演技が下手」「笑い方が嫌い」などかなり自己中心的なものなのが恐ろしい。彼らの言う公共の利益=自分たちの利益という図式が閉鎖的な街を支配する人間の怖さである。

アクションは主にラストだが銃撃戦あり、カーチェイスあり、爆破あり、格闘ありとしっかりと見せてくれる。コルネット3部作の中では一番要素てんこ盛りなのではないか。見応えあり。また、ライトの神的なカットセンスとテンポの良さは健在。ペッグとニックのバディも二人の仲の良さだからこそ出せる空気感、ずっとそれを見ていたくなる感には中毒になる。

【小ネタ】
ニコラスのロンドン警察署上司役でマーティン・フリーマンが登場する。シャーロックに出演する前の若き日のマーティン。ペッグと仲良しらしく「ワールズ・エンド」「ショーン・オブ・ザ・デッド」などにも出演している。
「スリー・フレーバー・コルネット3部作」についてはwikiに詳細ありますのでぜひ。